Blog,考察

前回の記事で、中国古代の馬は体高130cm程度と書きました。

https://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/records/2000777

こちらの研究によれば、雲夢睡虎地秦簡における秦の軍馬の体格の基準として5尺2寸という規定があり、それは現代の約134cmにあたるそうです。
そして、実際の遺跡からは134cm程度の馬のほか、125cm程度の馬もみられるということです。

秦馬の研究なので南方の越とは馬の系統も違ってくるでしょうが、中国古代において、あまり大きな馬は一般的ではなかったのではないかと考えられます。

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先日、クリスタの素材として戈と戦車を作り、公開しました。
https://assets.clip-studio.com/ja-jp/detail?id=2145385

https://assets.clip-studio.com/ja-jp/detail?id=2146661

 

以前は自分の漫画に素材を使うことに抵抗があったのですが、お仕事で漫画を描くときに、時短のため3D素材を使うようになりました。
そして、制作環境もだんだん変化してくるものだし、限られた時間の中で作品を描いていくには便利なツールは使えた方がいいのではないかと考えるようになりました。

しかし、歴史創作に使える3D素材というのは限られてきます。

それなら自分で作るしかないのではないか?
とは思ったものの、3Dなんてどうやって作るのか見当もつかず、とりあえずネットでいろいろ検索してみました。
すると、Blenderという無料で使える高機能なソフトがあり、それで作ったデータをクリスタ用の素材にできることがわかりました。

さっそくBlenderをDLし、チュートリアル動画を見ながら簡単な家具や果物を作ってみました。
これなら何とかできるかもしれない…と思ったのが11月の始め。その後はスケジュールの関係でなかなかBlenderに触れませんでしたが、1月になってから再び勉強を再開しました。

 

とりあえず1つ作ってみようと思って選んだ題材が「戈」です。
春秋時代によく使われていた長柄武器で、曲がった刃がついています。
小さいからすぐできるだろうと思っていたのですが、これがなかなか大変で、一つ躓いてはネットで検索して解決方法を探し、また一つ躓いては検索し…という繰り返しでした。
なんとかそれっぽい形はできたものの、刃の部分にへんな皺が寄ってしまい、あまりいい出来ではありませんでした。公開も躊躇したのですが、うまくなってからにしようと考えていたら一生公開などできないと思い、公開させていただくことにしました。

 

 

次に作ったのが「戦車」です。
戦車といっても20世紀に登場した装甲車両(tank)ではなく、戦闘用の馬車(chariot)です。
戈を作る過程でだいぶBlenderに慣れてきたので、制作そのものは戈よりも楽でした。

中国では殷の時代から戦車が登場し、戦国時代まで使われていましたが、基本的な構造は変わりません。
前に一本の轅が突き出し、轅の先に横棒が付き、そこに馬を繋ぎます。乗車する部分(輿)の囲いは後ろ側が切れており、そこから乗り降りしたと考えられます。
あいにく春秋時代末期の馬車の復元図というのが探せなかったので、戦国時代の湖北宜城羅崗車馬坑という遺跡から出た馬車を参考にしました(「文物」1993年12期 総451期)。細かいところは簡略化したものの、全体としてはそれっぽい形を目指しました。

 

作ってみてわかったのですが、輿がかなり狭かったです。同じ車馬坑から複数の馬車が出土していますが、横幅が135~150cm、奥行きが109~130cmでした。
馬は中型種で体高はせいぜい130cm程度【01】。乗員は3人が基本で、それぞれ御者、戈担当、弓担当でした。
これに3人乗るとこんな感じでしょうか。

以前漫画で戦車を出したときは、スケールを意識せずなんとなくイメージで描いていたので、もっと大きく描いてしまったんですが、思っていたのよりずっと狭かったです。
サスペンションもなく乗り心地は最悪だったろうし、訓練した人でないと乗れないというのも納得できました。

実際の戦闘がどうだったのか、見たわけではないので私個人の印象なのですが、戈という武器は何かを引っかけるような形になってるので、一撃で相手を仕留めるというよりは、すれ違いざまに相手の乗員を引っかけて車外に落とし、落ちた乗員に周りの歩兵がよってたかってとどめを刺す…みたいな感じだったんでしょうかね。

 

 

戦車の3DデータをクリスタでLT変換し線画抽出するとこんな感じです(上)。
ベクターレイヤーとして線画にしてから、線種を変えると少し手描き風味が出せるかもしれません(下)。
(参考→ LT変換後の線をがさがささせる【クリスタ】

 

Blenderのチュートリアルでよかったのはこちらのシリーズ

全18回の初心者向け講座です。
ソフトの操作方法からわかりやすく説明してくださるので私はこれが一番わかりやすかったです。

 

戦車と戈の3D素材はこちらから無料でDLできますのでよかったらどうぞ。
https://assets.clip-studio.com/ja-jp/detail?id=2145385 (戈)
https://assets.clip-studio.com/ja-jp/detail?id=2146661 (戦車)

 

【01】馬の大きさについて

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覇者と會盟についての漫画を更新しました。

2枚目の1コマ目、最初は絵の配置だけ考えてこういう絵で投稿してしまったのですが、

元になった2014年のペーパーではこうでした。


たしか耳の向きをちゃんと意識して描いた気がするなあ…と、投稿した後で思い出して、画像を修正しました。

ただソースがいまちょっとわからないので、わかったらまた書きたいと思います。

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2012年から刊行して参りました春秋時代の呉越を舞台にした歴史創作漫画「霸王の輔」ですが、このたび2025年より、再構成したうえで新たに再始動させていただきたいと思います。
これまでの作品(以降「旧作」といいます)は中断し、リメイク版として新作を発表する形になります。
この考えに至った経緯を簡単にご説明させていただきます。

 

「霸王の輔」は、父親からの圧迫で自分の意志を無くしていた范蠡という青年が、呉越の争いの中に身を置きながら、少しずつ自分を取り戻していくというテーマで描き始めました。

当時は私自身もこのテーマに対する解釈を模索しながらの執筆となり、試行錯誤しながら描いていました。

その後、私生活面で家族構成に変化があり、解放感と同時に混乱や喪失感を抱えることになりました。加えて、少し前のブログでpixivでちょっと面倒なコメントを書かれたことについて言及しましたが、そういったことも重なり、しばらくの間歴史創作から離れていました。さらに2019年より商業連載のお仕事をいただいていたこともあり、なかなかこの作品に向き合えない時期が続きました。

その間、親の支配からの解放、という作品の根本的なテーマについては、時間をかけて自分なりに整理ができてきたように思います。

2025年より歴史創作を再開するにあたり、これまでの作品の続きを描くことも当然考えましたが、最初の刊行から10年以上経ち絵柄がかなり変わっていること、上記の作品テーマに対する考えが変わってきたことなどを踏まえ、いったん旧作はリセットして、あらたに再構成して一から新作として描き直すことを選択させていただきました。

 

これまで「霸王の輔」を追い続け、応援してくださった皆さまには心から感謝申し上げます。その上で、旧作を中断させていただくことをお詫び申し上げます。

今後はよりよい作品をお届けできるよう精進して参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

2025年1月1日 白川祐
白川祐