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以前あった話をします。

 

漫画を描き始めてから20年ぐらいになります。いろんなジャンルを描いてきましたが、活動期間が一番長く、自分の根幹だと思っているのは歴史創作です。

昔は本当に一生懸命描いていました。分厚い同人誌をどんどん出していたし、イベントに合わせてpixivやSNSで積極的に宣伝していました。

私が描いているのは春秋時代の呉越を舞台にした漫画です。歴史漫画ではありますが、物語としての演出のために、あえて史実から逸脱する部分も設けていました。

ある日、pixivに同人誌の漫画のサンプルを投稿すると、「コメントあり」の通知が飛んできました。歴史創作ではコメントや感想をもらう機会は本当に少ないので、わくわくしながらコメント欄を確認すると、そこには「時代考証が違う」との指摘があり、たくさんの史料が添えられていました。私はその史料は当然読んでいましたし、読んだ上で漫画の表現としてあえて変えているとお返事しましたが、理解はされなかったようで、次の投稿でも同じ事がありました。当時はコメント欄閉鎖の機能はありませんでした。

別のところでも描きましたが、私は歴史創作というのはフィクションであり、必ずしも史実通りに描く必要はないと思っています。これはいろいろな意見があると思いますが、私個人としては、史実を再現しているわけでも、史料のコミカライズをしているわけでもないと考えています。

コメントを書いた方に悪気があったとは思いません。しかし、しばらくして私はpixivから歴史創作関連の投稿をすべて引き上げました。

 

 

それから数年間は、二次創作などに手を出しつつ、細々と歴史創作も続けて来ましたが、漫画は描いたけれど誰にもかまわないでほしい、という奇妙な状態でした。同人イベントに出る際も、ほとんど宣伝しなくなってしまいました。まったく健全ではなかったと思います。

たった2回の書き込みでどうしてそこまで…と思われるかもしれませんが、言葉というのは非常に強いのです。コメントをもらうと作家は嬉しいので「せっかくコメントしてくれたんだから」とか「いろんな人の意見も聞かなきゃ」という思いが強くなってしまう。その結果、自分でも気づかないうちに、他人の言葉に支配されてしまいます。

先ほども書いたように、歴史創作のようなマイナージャンルではコメントは滅多にもらえません。人気作家さんが100件コメントをもらって、そのなかに1つ2つ、ちょっとこれはというコメントがあったとしてもあまり気にならないかもしれませんが、3件コメントをもらって2件がこれだと、ずっと重みが増すのです。

史実の通りやりなさい派の人とはいくら話し合っても決して歩み寄ることがないのですが、当時の私は、決して相容れない意見を受け流すことができず過剰に反応して、すっかり萎縮してしまいました。

 

この出来事から私は、いろいろと学びました。

当時の私に言いたいのは、他人の意見を重視しすぎず、自分の作品を守ることにもっと力を入れろ、ということです。

私は自分の作品を隠すことで、作品を守ろうとしたのですが、それは全く建設的ではありませんでした。フィードバックは重要ですが、自分の創作活動を萎縮させるような意見だったら聞く必要はありません。

全ての意見に同じ重みを持たせることはありません。自分のやりたいことの方が大事だということ。

きちんと自分の作品を守る施策を考えた上で、作品を発信し続ける道を模索すべきだったのではないかと、今になって思います。

 

 

現在はサイトやSNSのプロフィールに「私が描く歴史創作は歴史を題材としたフィクションであり、史実を忠実に反映したものではありません」と表記を入れています。こういうやり方が正しいかどうかはまだわからないし、この記載があったとしても「あなたの描くものはおかしい」と言われることがあるかもしれません。

しかし、自分の立場をあらかじめ示しておくことによって、相容れない意見を排除することへの抵抗感を減らせるかもしれません。

Cartoon

 

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2022年の冬コミで配布したペーパーの漫画です。

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2022年の夏コミで配布したペーパーです。

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呉越春秋 闔閭内伝
至今後世,即山作冶,麻絰葌服,然後敢鑄金於山。

「山に入って冶金をし、麻の帯をしめ茅草の服を着て…」と訳してみましたが、「葌服」を大漢和では「香草を佩びる」と解釈しています。「葌」に香草という意味と萱という意味があるようです。

覇王の輔

作品紹介

「霸王の輔(はおうのほ)」は、白川祐が2012年5月より発表している創作歴史漫画です。
現在、COMITIAやコミケを中心に、年数回のペースで刊行しています。
map.png舞台は紀元前5世紀末、春秋時代の中国。
長江下流域に呉・越とよばれる王国が勃興し、激しい争いを繰り広げました。
越の名君として伝えられる句踐(こうせん)。彼に仕えた人物に、范蠡(はんれい)という人がいました。
「霸王の輔」は、この范蠡を主人公として描いています。
ストーリーは必ずしも史書どおりではなく、かなりオリジナルな展開も入っています。
一つの呉越譚として、お楽しみいただけたらと思います。

 

文献

呉越に関連する文献の日本語訳を掲載しています。
X(旧ツイッター)で訳しているものをまとめたものです。
基本的に、四部叢刊本を使用しています。

以下の点につきご了承ください。

・内容は随時修正を行っております。決定稿ではございません。

・訳の間違いについては、白川の訳し方に問題がある場合と、原典自体がそもそもおかしい場合があります。
重要な用途に用いられる場合は、必ず原典をご確認ください。

・こちらを参考にして生じた問題については、一切の責任を負いかねます。

参考資料

三民書局
「新譯呉越春秋」黃仁生注譯 李振興校閲 1996
「新譯國語読本」易中天注譯 侯迺慧校閲 1995(2013修正二版三刷)
「新譯越絶書」劉建國校譯 黃俊郎校閲 1997

中華書局
「越絶書校釋」李步嘉校釋 2013

岳麓書社
「呉越春秋校注」張覚校注 2006

明治書院
「新釈漢文大系 国語 下」大野峻著 1978